男のつぶやき

2015年9月27日 (日)

墓というものごと

兄から近所の墓地の永代使用権が当たったから、墓を建てたいという相談がありました。祖父が生まれ育った岩国市の錦帯橋の近くには、昔ながらのしぶい代々の墓があるのですが、遠いことで小姑からの圧力を感じている母親から懇願されるうち、墓石屋に発注する手筈も整ったとのことでした。

少子化や後継者のいない家もあるし、だれもが一生ひとところにとどまって生活する時代ではないのに、墓守の風習がいつまでも続けられるとは思えません。狭い国土を墓とゴルフ場で埋め尽くすこともあるまいし、欧米の映画でみるような心温まる散骨への憧憬もあり。

墓石や墓地の宣伝広告には、まるで建売チラシのような胡散臭さしか感じることができず、好きにしてもいいけれど、自分はおそらくそこに骨を埋める気になれないことを伝えました。

かなり以前のことですが、自分が子供の頃、家族で訪れたときと同じ年頃になった息子を連れて、岩国の墓をお参りしたことがあります。広島で原爆資料館やドームを見せ、厳島神社、弥山といった瀬戸内ならではの土地を巡りながら、牡蠣を食べ、岩国寿司を食べ、錦帯橋のたもとに転がる石を拾って帰り、自宅の前庭の玉砂利に混ぜました。

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お墓があるわけではありませんが、東大寺や法隆寺にいけば、大昔から何度訪れても、まったく変わらない風景の中で、鹿に噛まれた思い出や、小説の場面を語りながら、昔と同じ構図で写真を撮ってみます。

旅をするときに最もはっとさせられることのひとつは、若い頃に訪れて感動した場所を、30年ぶりに訪れても、なんら変わることなく、美しい建築や荘厳な風景が佇んでいることを確認した時じゃあないでしょうか。それらを世代を超えて誰かに伝えられることに、代え難いよろこびがあります。

自分がお墓に求めるものは何なんだろうか。

それは、お参りのし易さとか頻度ではなく、もちろん、墓石の大きさや広さでもない。おそらく、幼少期に体験した美しさや長閑で心地よい空間の記憶を呼び起こしてくれる装置として、ゆかりの地がいつまでも変わらずにあるという確かな感覚なのかもしれません。

後日兄から、買うのはもうしばらく待ってみようと言われたので、岩国の墓参りにいくことを薦めました。

2015年8月10日 (月)

又吉と瀬戸

先週末、構造設計担当の久米さんと、確認申請機関での打ち合せ後、涼をもとめてはいったカフェで建築談義するうち、話題は、新国立競技場計画での土建業界やマスコミ報道の問題へと移り、さらに件のロゴマークに話が及んでは、かえって夏バテに拍車がかかってしまったのでした。

東京オリンピックに絡んだよくない企みを多く目にしているうち、お笑いの又吉直樹の本がミリオンセラーになっているという話題すら、眉唾と勘ぐりたくもなっていました。

しかし、読まずに批判はできないという話になって、文藝春秋9月号にて「火花」を読了。

その結果、とても面白かった!

又吉という芸人が、人を笑わす仕事に情熱をもって、真剣にその職能に向き合っていることが感じられて、とても爽やかな気分になりました。

お笑いを目指すふたりの主人公の泣き笑いを通して、職業と才能の問題についての普遍的な悩みを描いているところは、多くの若い世代が読んで、確かに共感できるんじゃないかなと、改めて感心した次第です。

自分のやりたいことに向かうときに立ちはだかる才能や機会の悩みと不安は、僕の大好きな映画「パンチライン」と「キングオブコメディ」にも通じていて、ぐっとくるものがあります。

選評では、青春時代に読んだ「青が散る」の宮本輝氏が一番推していて、ちょっとうれしくなりました。

読み終えてまもなく、テレビには世界水泳400メートル個人メドレーでスランプを跳ねのけ連覇した瀬戸選手の泳ぎが映し出されていて、だめだめになっている業界もあるけれど、純粋にひたむきに頑張っている個々人の活躍を目にし、おおいに元気をもらうことができた週末なのでした。

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疑って悪かった。。。

2015年6月28日 (日)

姥島とはつまり烏帽子岩のこと

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モンサンミシェルやベネチア、厳島や竹生島、二見ヶ浦の夫婦岩、さらには竜安寺の石庭まで、陸のすぐ近くにありながら陸から切り離された小島や岩礁といった地勢は、太古の昔から神聖な場として、見立てられ、しつらえられてきたわけです。

男子たるものエボシに泳いで渡らねばならぬ、というのが神奈川に伝わるしきたり。

なんてことは無いと思いますが、そんな地形の魅力に駆り立てられるように、いつか烏帽子岩まで泳いでみたいと思っていました。

今日は、波がかなりうねっていて岩礁には登れなかったのですが、梅雨にかかわらず、晴れ上がった空の下、心地良いイニシエーションの休日となりました。

2015年6月19日 (金)

AAスクールのこと

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ロンドンの大学院時代の友人が、古い資料から見つけた僕と菱谷の作品のイメージをフェイスブックに添付して送ってくれました。

AAスクールは学内イベントの週間パンフレットが発行されていて、目当ての展示やレクチャーがあると、内外から多くの建築関係者が訪れます。

国内外の著名な建築家や思想家のイブニングレクチャーやエキジビションが、ひっきりなしに催されていて、ロンドンの中心にあるAAスクールならではの、アカデミックでありながらカジュアルで、親しみのある雰囲気があります。

レクチャーホールでは名作の上映会というのもあって、2階のバーで買ったビールを飲みながら、わいわいと楽しんだりします。特に想い出深いのはデビッド・リンチの「イレイザーヘッド」(笑)

カバーはイベントの宣伝イメージであることもあれば、この時のように国際コンペで賞をとったイメージが使われたりして、その週は、ちょっとした有名人になった気分を味わえました。

それにしてもあれから18年も経ってしまったことが一番の驚きです。

2015年6月 1日 (月)

玄関タイガース

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トラキチ女子から息子へのプレゼント。

なにか玄関が殺風景だと思っていたけれど、

あじさいじゃなくて、これだったのか?

最近仕事で風水に関わる機会があって気づいたんですが

玄関に黄色い虎は運気アップ間違いなし!

2015年5月26日 (火)

省スペースのフラワーベース

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生花を愛でる趣味はないですが、もらったときのために花器は必要です。

フィンランド土産のこの花器は、じつはビニルでできていて、ふだんは、完全フラットなシートなのですが、

水をいれると、水圧で変形し、自立します。

葉っぱを取り除いてアレンジすれば、アジサイもまあみられるかな。。。

というより花器がいらないときに邪魔でないことがうれしい(笑)

2015年5月17日 (日)

「セッション」と「バードマン」

仕事のスケジュール変更で、週中日に、話題の「セッション」と「バードマン」を続けざまに見ました。

「セッション」はストレートに、「バードマン」はめちゃくちゃ濃い~のですが、それぞれストイックに針が振り切れていて、好対照ながら、とっても面白かったです。

「バードマン」は、カット割を一切なくして、シンプルにひとつながりにつなげていくことと、さらに、現実と妄想の境目もなくしてまぜこぜにすることで、いろんな出来事や記憶の新しい関係性のようなものを作り出しているように感じました。

縦横無尽なアイデアやプロットに感心しながら、ブロードウェイの劇場の内外を巡る連続的なカメラの視点を追ううち、キートン演じるバードマンの妄想に惹き込まれていきました。

たまには、事務所を抜け出して、見るべきものを見に行かねばならないと感じた、ゴールデンウィーク明けの平日、なのでした。 でも、けっこういますよ~(笑)

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因みに、どちらもドラムをたたきたくなる映画ですが、写真の土間に置かれた電子ドラムは、もちろん僕ではなくて、建て主さんのものです。

2015年4月13日 (月)

パイプカットの続き

棚のパイプカットの全身筋肉痛が治まって、アネックス(打合せ小屋)の模様替再開!

PCカウンター用にカットしたランバーコア合板の小口を仕上げて、ウレタンクリアつやけし塗装3回。

さらに、板を載せる台座(重量なんと20キロ!)を、立川まで行って買い戻り、準備完了。

パイプカットしたのは、既製品のプリンターラックの棚柱で、下のワゴン部分だけ残して、セットしたカウンターの下に収めたのでした。

かつてはありがたかったレーザープリンターも、いまや目に入るだけで、残念なかんじがします。

なぜだろう?

高画質のプリントは素晴らしいのだけれど、OA機器やスチールの事務机って、あるだけで会社の営業所とか、職員室みたいな雰囲気が出てしまうんです。

つまり、デザインの現場に、似合わないのですね。

スモールスペースを、心地良く、刺激的な場にするためには、できるだけテーブルより上に、余計なものがないようにレイアウトすることが、わりと大事です。

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蓋の開け閉めがあるスキャナーだけは御愛嬌で!

2015年4月10日 (金)

実施設計完了したら

間取りや設備の打ち合わせを終えてから、詳細な図面に発展させていく実施設計は、後戻りできないという意味でも、毎晩深夜まで肉体的にも、ハードな作業になります。
 
つまり実施設計の終盤ひと月ほど、図面のなかに棲んでいるような感じになるのですが、いよいよ締切前になると、ここから出たら(図面提出したら)あれこれやろうと画策したりしています。
 
さて、週明け、工務店に図面を出して、まずやったことは、事務所の棚の鉄の支柱カット(笑)
 
手元にあった鉄ノコで勝負に挑みました。
 
切断方向に力をいれないで、リズムを整えながら前後に腕を振ること1時間。
 
4本のパイプカットに成功!
 
これ、肉厚1.5ミリはあります。
 
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「どうしてグラインダー(電動工具)を使わないのか?」
 
「からだで鉄を感じたかったから」
 
とはいえ、翌日には全身筋肉痛に襲われ。。。

2014年12月26日 (金)

競泳プールのこと

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この4年間、年の瀬になるとある水泳競技会のために東京の辰巳国際水泳場にでかけています。かつて北島選手が世界記録をだした本格的なコースで泳げるというのも楽しみのひとつで、新広島球場なども手がけた仙田満氏の設計による建物は、建築的なスペースを感じることのできる数少ないプールのひとつです。

ロンドンやミュンヘンの公共プールのような建築的なるプールが日本にあるのかというと、他には数年前に残念ながらプール営業を中止してしまった丹下健三設計の代々木体育館しかありません。

2020東京オリンピックの競泳は、代々木か辰巳を改修すれば十分で、酷く減額変更をさせられている国立競技場の新築にまわしてもらいたいという気がします。

下の写真は僕の出身事務所でもある磯崎新アトリエによるバルセロナ五輪の体育館サンジョルディパレスで、ふだんは体育館だけれど、世界選手権2013のために仮設プールを設営した状態。

設計会社の持ち回りによる建物じゃなくて、多少手間や時間がかかっても、愛着の湧く、体験する価値のある建築をつくることで、メンテしながら永く、多様な使途にフレキシブルに対応していこうという発想が必要と思いますね。

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