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2010年1月 8日 (金)

ネガフィルム再生

一昨日の回廊の写真は南仏にある12世紀ロマネスク期シトー派の修道院 「ル・トロネ」のものです。

コート・ダジュールの町サン・ラファエルから車で1時間くらい。

初めて訪れた1991年当時は観光整備前だったので付属施設などもなく、山間の斜面にひっそりと残された廃墟のようでした。

ロマネスク期の建築というと装飾的な印象がありますが、シトー派というのは偶像はもちろん装飾を排除して極めて厳格な秩序を目指していたことが特徴で、修行僧の生活もとても過酷なものであったことが伝えられています。

結果として形態の均整が研ぎ澄まされ、精緻に研磨された石積に全精力が注がれることになったのだろうと思いますが、セナンク、シルバカーヌといった同会派の修道院に比べても特に優れているのは、複雑な斜面地形によって平面や断面が修道院の単純な形式を逸脱しているところです。

つまり個別の状況に真摯に向き合う中で、既成の形式や制度から逸脱しながらも、そこに新たな原型つまり、普遍性を生み出すという、建築の目的そのものを見ることができるのです。

回廊の写真をみると、手前に階段があり、列柱の手前のアーチだけがそれにあわせて一段高くなっています。じつは回廊全体が斜面状になっているのですが、スロープだけではおさまらなかった部分にだけ巧みに階段が採用されたわけです。これらはすべて地形に対する建築的応答なのですが、結果としてここでしか見られない空間的な効果が生み出されています。

ついつい薀蓄になってしまいました。ともあれ、菱谷と人気のない堂内を三脚を担いで廻りながら朝から日暮まで太陽の運行を追うように撮ったネガは300カット以上になりました。

天候もすばらしくほとんど貸切状態で撮影できた幸運。

時々刻々まったく異なる情景が立ち現れては移ろいゆく静謐な空間。

たったひとつの建物がこれほど多くの表情を生み出すことはそうそうあるものではないと思います。

その後デジタルの時代になってから、眠っていた当時のネガをスキャナーでじっくりと読み取ってみたところ、驚くことに肌理や質感、階調の豊かさはデジタル写真の比ではなくすばらしいものだと気づきました。

光庭に面した壁の厚みは1.5メートルほどもあり、アーチ天井の先の闇と南仏の真夏の陽光の究極のコントラストがしっかりとネガに焼付いているのを見るとプリントでは感じられなかった当時の体験が蘇ってきます。

プロからネガがいかに眠れる宝物なのかを教えてもらったのはデジタル時代になってからですが、スキャナーで見事に再生できる時代がくるとも知らずに撮り貯めた多くの名作のネガを毎年末に整理しながら、どれをカードにしようかとあれこれ空間の余韻に浸るのが二宮はかなり好きです。

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